第32回例会




新潟オルガン研究会第32回例会
第1部 バロックの調べ Baroque Music
G.ムッファト/
 トッカータ第6番
  オルガン独奏:八百板正己
D.ブクステフーデ/
 プレリュード ニ長調 BuxWV139
  オルガン独奏:海津 淳
G.F.ヘンデル/
 リコーダーソナタ ハ長調 作品1-7
  リコーダー:皆川 要
  オルガン: 笠原恒則
J.S.バッハ/
 小フーガ ト短調 BWV578
  オルガン独奏:渡辺まゆみ

第2部 バロックから現代 from Baroque to Modern
W.A.モーツァルト/
 アンダンテ K.616
  オルガン独奏:渡辺まゆみ
H.パーセル/
 「もし音楽が恋を養う糧ならば」Z.379A
 附随音楽「オーレング・ジーブ」Z.573より
 「あの人が私から逃げてしまう」
 「今や太陽の光も薄れしからには」Z.193  
 ソプラノ:西門優子  
 オルガン:笠原恒則
ジャン・アラン/
 空中庭園
  オルガン独奏:海津淳
F.ペータース/
 「めでたし海の星」による
 トッカータ,フーガと賛歌 作品28
  オルガン独奏:大作 綾


日 時:平成14年10月6日(日)午後2時開演
場 所:花園カトリック教会(新潟市花園2-6-9)
参加費:800円
主 催:新潟オルガン研究会
連絡先:パトス音楽村 Tel: 025-263-3577

【曲目解説】
G.ムッファト(Georg Muffat, 1653-1704)
トッカータ 第6番
 トッカータとはイタリア語の「触れる」という言葉に由来する名前で,オルガンの試し弾きや即興演奏のスタイルで作られる.本日演奏するこの曲は,「トッカータ」というタイトルから一般に連想される技巧性や激しさとは異なり,平和な喜びに満ちた曲である.この曲が作られるまでにトッカータは100年ほどの歴史を持つが,諸先輩作曲家の作ったトッカータの書法を受け継ぎ,自由な部分としっかりしたフーガの部分とが交互に現れる.各部分の性格はとても対照的で,起承転結の筋書きを持ったドラマのようにも聴こえる.(八百板正己)

G.F.ヘンデル(Georg Friedrich Haendel, 1685-1759)
リコーダーと通奏低音のためのソナタ ハ長調 HWV365
Larghetto, Allegro, Larghetto, A tempo di Gavotti, Allegro
 ヘンデルがオペラやオラトリオを発表していた頃のイギリスでは,経済的余裕から趣味で楽器を楽しむ市民が多かったらしく,ヘンデルの木管ソナタも,これらのアマチュア音楽家をターゲットに出版されたと考えられている.これらの曲は,オペラでの斬新な作風とは違い,一昔前のコレッリに近い曲づくりになっているが,これはイタリアでコレッリの影響を受けたヘンデルが,イギリスに遅れてやって来た「コレッリ人気」に便乗する意図があったものと思われる.今日演奏する曲は室内ソナタに分類され,ほぼリコーダー用に間違いないと考えられている.そこで演者は,「ほとんどイタリア,少しフランス」風の演奏を心掛けたい.また,ちょっとした理由から,調律が全音低い楽器を使ってニ長調で演奏する.結果としてハ長調で聴こえるはずであるが,この試みが果たして良い結果をもたらすかどうか・・・(皆川 要)

D.ブクステフーデ(Dietrich Buxtehude, 1637頃-1707)
プレリュード ニ長調 BuxWV139
このニ長調の作品はブクステフーデ自身に代表される北ドイツ・オルガン音楽の定石どおり,トッカータとフーガ風の楽章が交互に提示される〈プレリュード〉である.そしてここで核となるのは短く単純なモティーフのたたみかけるような反復であり,この簡潔な反復が音楽の終始前へと進む躍動感を持続させている.途中意表をついて現れる二つの経過部によるコントラストの効果も充分,最後に駆けのぼるような音階が一気に作品をフィナーレへと導いてゆく.(海津 淳)

J.S.バッハ(Johann Sebastian Bach, 1685-1750)
フーガ ト短調 BWV578
 いわゆる「小フーガ ト短調」であるが,同調の「幻想曲とフーガ」(BWV542)の大フーガと区別するためにこのような通称が生まれた.作曲はヴァイマール時代以前.このフーガの主題は非常に美しく,1度耳にしたら2度と忘れることはないだろう.短調だがきわめて明るい感じに富み,暖かみのある主題である.全体を通しての書法は単純・明快で男性的な感じがする.(渡辺まゆみ)
H.パーセル(Henry Purcell, 1659-1695)
「もし音楽が恋を養う糧ならば」Z.379A
附随音楽「オーレング・ジーブ」Z.573より
「あの人が私から逃げてしまう」
「今や太陽の光も薄れしからには」(夕べの祈り)Z.193
 ヘンリー・パーセルは1659年,ロンドンで生まれた.その頃のイギリスは共和制が崩壊し王政が復古するという激動の時代であった.環境と才能に恵まれたパーセルは,ウエストミンスター寺院や王室礼拝堂のオルガン奏者,宮廷ハープシコード奏者など,次々とイギリス音楽界の重要な地位を占めていった.作曲のジャンルは幅広く,オードやアンセム,歌曲,劇音楽,器楽曲などの分野で数々の名曲を残した.「もし音楽が恋いを養う糧ならば」はH.ヒヴニンガムの詩による愛の歌である.パーセルは同じ歌詞による3通りの曲を書いており,今日演奏するのは1692年作曲の第1曲目.晩年,彼は40曲以上の附随音楽を書いた.J.ドライデン台本による「オーレング・ジーブ」の音楽もそのひとつ(作曲1692-94).その中の「あの人が私から逃げてしまう」は,この悲劇をさらに劇的に盛り上げている.3曲目の「夕べの祈り」は,リンカーン司教のW.フラーの詩に1688年に作曲した宗教的歌曲.1695年,36年の短い生涯を閉じたパーセルは,ウエストミンスター寺院のオルガンの足元に葬られた.(西門優子)

W.A.モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart, 1756-1791)
アンダンテ KV616
 短い生涯の間にたくさんの作品を残したモーツァルトは,多数のミサ曲など教会音楽の分野でも活躍した.しかしオルガンに関しては,自動オルガンのための数曲のみである.よく知られているのはこの曲の他には,Adagio, Allegro (und Adagio) KV594とFantasie KV608がある.この曲は,最初にリズミカルで可愛らしいテーマが現れ,次に転調して軽快な伴奏を伴ったややなめらかだがやはりリズミカルなテーマが現れる.やがてこのフレーズが静かに終わると,また最初のテーマへと引きつがれるといった具合に,何度かリズムや調を変化して繰り返される.モーツァルトの音楽のもつ軽妙さが非常によく出ている曲だと思う.(渡辺まゆみ)

J.アラン(Jehan Alain1911-1940)
空中庭園
 反復される主題旋律上に,和声的・旋律的変奏を展開してゆく古典舞曲〈シャコンヌ〉.アランの〈空中庭園〉はこの舞曲形式を踏襲しているが,同時に,提示される旋律と和声はきわめて現代的に再構築されたものである.伝統と前衛,この二つの融和と彼自身の指定する選び抜かれた音色は,一種とらえ難い神秘的な世界を創り上げている.アラン自身によれば,〈空中庭園〉とは芸術家の求め続けるうつろいやすい理想郷であり,隔絶され侵すことのできないその隠れ家である.(海津 淳)

F.ペータース(Flor Peeters, 1903-1986)
「めでたし海の星」によるトッカータ,フーガと賛歌 op.28
 ベルギーのオルガン奏者・作曲家.父親からオルガンの手ほどきを受け,その後,O.デュプイ,M.デュプレ,C.トゥルヌミールに師事.レマンス学校オルガン科教授,アントワープ王立音楽院院長を務める.ヨーロッパ,アメリカ,ソビエトへの演奏旅行は1200回を越えた.オルガン曲や教会音楽のほか,歌曲,器楽コンチェルト,室内楽も作曲している.この曲は,グレゴリオ聖歌「めでたし海の星(Ave maris stella)」の旋律に基づいて作曲されている.トッカータ冒頭でペダルに堂々とテーマが現れ,次々と各声部で模倣される.フーガの後半では各声部にほぼ同時に音価を変えたテーマが現れ,曲は最高潮に達する.最後は威厳を持った賛歌で幕を閉じる.(大作 綾)