第27回例会


***スプリングコンサート***
第1部
お話し:松本 彰(新潟大学人文学部教授)

バッハとヘンデル


J.S.バッハ
コラールファンタジア「来ませ聖霊、主なる神」BWV651
オルガン独奏:渡辺まゆみ
第2部
J.S.バッハ
御身がともにあるならば BWV508
G.F.ヘンデル
オペラ「リナルド」より
我を泣かせたまへ
ソプラノ:西門優子
オルガン:山田淳子

J.S.バッハ
フーガの技法 BWV1080 から
コントラプンクトゥス1 (正置形に基づく単純フーガ)
コントラプンクトゥス4 (転回形に基づく単純フーガ)
コントラプンクトゥス7 (反行フーガ:拡大・縮小による)
オルガン独奏:笠原 恒則

G.F.ヘンデル
ハレ・ソナタ第1番 イ短調 HWV374
リコーダー:安田 宏
オルガン:井山靖子

J.S.バッハ
幻想曲とフーガ ト短調 BWV542
オルガン独奏:宇田蕗子

***曲目解説***

●コラールファンタジア「来ませ聖霊主なる神」 BWV651
J.S. バッハ(1685-1750)
 表題からもわかるとおり聖霊降臨説のコラールで華麗なトッカータ風のフ ァンタジアである。この曲は「17のコラール」の第1曲目なのだが、17曲はすべてヴァイマル時代、もしくはそれ以前の旧稿(J.G.ヴァルターや弟子たちの手による筆写譜)とともに伝えられている。したがってこの曲集は、若き日の作品を晩年になって補筆、改訂したものということになる。曲ごとのスタイルの多様さはバッハが積み重 ねてきたオルガン・コラール創作全般の性格を反映している。(渡辺まゆみ)

●アンナ・マグダレーナ・バッハのための音楽帳より
御身がともにあるならば BWV508
J.S. バッハ(1685-1750)
 バッハが2度目の妻アンナ・マグダレーナに贈った曲集が「アンナ・マグ ダレーナ・バッハのための音楽帳」である。この音楽帳にはバッハの作曲した曲だけではなく、アンナや子供達の曲、他の作曲家の曲なども含まれている。この「御身がともにあるならば」は、「第2巻」に入っており、G.H.シュテルツェルの作といわれている。(西門優子)
●オペラ「リナルド」より
我を泣かせたまへ
G.F.ヘンデル(1685-1759)
 「リナルド」はロンドンにおけるヘンデルの最初のオペラであり、このオ ペラによって彼のロンドンデビューは大成功をおさめた。 「我を泣かせたまへ」は、第2幕第4場で魔法の庭に幽閉されたアルミレーナが歌うアリア。サラバンド風のこの旋律は当時かなり流行したようである。(西門優子)

●フーガの技法 BWV1080より
コントラプンクトゥス1 (正置形に基づく単純フーガ)
コントラプンクトゥス4 (転回形に基づく単純フーガ)
コントラプンクトゥス7 (反行フーガ:拡大・縮小による)
J.S. バッハ(1685-1750)
 前回に引き続き『遁走曲奥義』こと『フーガの技法』です。これは、晩年 を迎えたバッハが、生涯かけて磨いてきた技のすべてを込めた曲集で、それぞれ異なる作曲技法で展開されたフーガが十数曲、見事な標本のように収められています。本日はそこから、音の上下を反転させるという技法「転回」を用いた曲を取り上げました。第1番の主題を基本(正置形)として、第4番の主題はそれをそのままひっくり返したもの(転回形)になっています。そして第7番では、この両方の形が交互に現れる上、「拡大・縮小」(音の長さを倍増したり半減したりする)の技法も加わります。半分に縮まった正置形が機敏に歌い出すと、それに転回形が応答し、次には倍に延びた正置形が深い呼吸で朗々と…という調子です。千変万化する主題、その織りなす綾地をお楽しみください。(笠原恒則)

●ハレ・ソナタ第1番 イ短調 HWV374
G.F.ヘンデル(1685-1759)
Adagio〜Allegro〜Adagio〜Allegro
 この曲は、1830年にロンドンで6曲のソナタ集の第1番として出版されました。6曲のうち前半の3曲がヘンデルの作品であることについては、疑義もあるとされています。仮にヘンデルの作品であるとした場合には、ハレ時代(1703年以前)に成立したものと考えられており、10代に作曲されたことになります。曲は、4つの楽章で構成されており、どの楽章も同じ調性(イ短調)で書かれています。本来は、フラウト・トラヴェルソ(横吹きのフルート)と通奏低音のために作曲されていますが、 本日はソプラノ・リコーダーとオルガンによって演奏します。(安田 宏)

●幻想曲とフーガ ト短調 BWV542
 幻想曲はケーテン時代、フーガはヴァイマル時代の作曲と考えられる。 幻想曲の冒頭のトッカータは自由奔放、エネルギーに満ちており、つねに強烈な印象を与える。次に現れるフーガは対照的に荘厳かつ清澄であり、また転調の美しさはすばらしく、半音階的な作品の中でもバッハの傑作中の傑作といえよう。フーガの主題はネーデルランドの古い民謡に基づいている。このフーガには古くは、ネーデルランド出身のJ.P.スウェーリンク(1562-1621)から、ハンブルクのJ.A.ライントン(1623-1722)、リューベックのD.ブクステフーデ(1637-1707)、フーズムのN.ブルーンス(1665-1697)等に至る北ドイツ楽派の伝統が脈々と受け継がれている。バッハのオルガン作品の中でも難曲のひとつに数えられBWV578のフーガが「小フーガ」と呼ばれるのに対して、こちらのフーガは「大フーガ」と呼ばれている。(渡辺まゆみ)

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第28回例会


***サマーコンサート***
第1部
〜オルガンの調べ〜
D.ブクステフーデ
プレリュードとフーガ 嬰へ短調
オルガン独奏:市川純子
N.グリニー
「キリエ」より
テノール上の第1キリエ、フーガ
トリオ、グラン・ジューによるディアローグ
オルガン独奏:海津 淳
G.F.ヘンデル
オラトリオ「エステル」序曲
オルガン独奏:八百板正己
M.デュプレ
めでたし海の星
オルガン独奏:渡辺まゆみ
第2部
〜ソプラノ風間左智さんを迎えて〜
W.A.モーツァルト
クローエに
G.F.ヘンデル
9つのドイツ・アリアよりHWV 207
わが霊魂は見ることで聴く
B.ストロッツィ
心に秘めた恋人
C.モンテヴェルディ
喜びの声をあげよ
金色の髪よ
ソプラノ:風間左智、田邉礼子
リコーダー:皆川 要、林 豊彦
ヴィオラ・ダ・ガンバ:白澤 亨
オルガン:水澤詩子

***曲目解説***


D.ブクステフーデ(1637-1707)
--プレリュードとフーガ 嬰へ短調 BuxWV146--
 ブクステフーデはドイツの中期バロック時代を代表する作曲家.北ドイツ,リーベックのマリア教会で40年間オルガニストを勤めた.若きJ.S.バッハに絶大な影響を与えたため,バッハの先駆者のように言われるが,決して二流の作曲家ではない.豊かな創意,みごとな対位法技巧,あふれ出るファンタジー,内容の深さ,どれをとっても一流である.嬰へ短調のプレリュードとフーガは,2つの部分からフーガを自由な「トッカータ」でサンドイッチにした形式.そのトッカータもいくつかの部分からなり,ブクステフーデの「創意あふれる幻想の世界」を堪能できる.(林 豊彦)

N. deグリニー(1672-1703)
--《キリエ》よりテノール上の第一キリエ,フーガ,トリオ,グラン・ジューによるディアローグ--
 フランス,シャンパーニュ地方の都市ランスで音楽家一族に生まれたグリニーは,1693年より1695年までパリのサン・ドニ大修道院のオルガニストを務めたのち,故郷ランスの大聖堂オルガニストとしてその生涯を終えた.ミサのための《キリエ》より,第一曲はペダル声部(テノール)にキリエ定旋律を.続く五声のフーガで同旋律は三部に分かれて展開.トリオの二つのソロ声部は,対話形式から後半のペダルを伴う三重奏へ.そして最後を飾るグランジューはリード管による華やかなディアローグである.いずれも同時代フランスの様式を踏襲しつつ,表現力豊かな装飾音と独自の陰影がその音楽を際だたせている.(海津 淳)

G.F.ヘンデル(1685-1759)
--オラトリオ「エステル」序曲--
 ヘンデルはバッハと並んでバロック時代の最後を飾る巨匠の一人.彼の最大の功績は多数のオペラやオラトリオであると言える.それらの冒頭に置かれたオーケストラによる序曲を,ヘンデルの最晩年にロンドンの出版社が鍵盤楽器独奏用に編曲し,「ヘンデルのすべてのオペラとオラトリオによる60の序曲,ハープシコードまたはオルガンのために」と題して出版した.「すべての」は誇張で,編曲者も不明だが,フーガなどの対位法を忠実に再現するなど,当時ありがちな安易な編曲とは一線を画した聴き応え十分な曲集となっている.「エステル」序曲はその中の1曲.オルガンの多彩な音色の使い分けと相俟って,華やかな劇場の雰囲気が目に浮かぶようである.(八百板正己)

M.デュプレ(1886-1971)
--「めでたし海の星」--
 デュプレはフランスの作曲家・オルガニスト.ヴィドールの後任としてパリの聖シェルピス大聖堂のオルガニストを勤めた.「めでたし海の星」(Ave Maris Stella)は聖母マリアへの讃歌で,デュプレはこれを元にして1919年に作曲した.I.「天使ガブリエルの挨拶」:テーマはソプラノとバスにカノンで現れる.II.「イエスの優しい母にあなたの願いを伝えなさい」:テーマはテノールに現れる.III.「人生の旅路で苦しむ私たちを力づけてください」:コラールはJ.S.バッハの様式で装飾されている.IV.「アーメン」:テーマはデュプレ独特の華やかなトッカータ様式で最初はバスに現れるが,次にソプラノで歌われて最高潮に達したあと,ピアニシモで終わる. (渡辺まゆみ)

W.A.モーツァルト(1756-1791)
--「クローエに」KV524--
 1787年6月24日,ウィーンで作曲された.詩はJ.G. ヤーコビ (Johann Georg Jacobi)によるもの.恋人クローエを想う気持ちを情熱的に表現した詩に,軽やかで明るい音楽が奏でられている.
G.F.ヘンデル(1685-1759)
--9つのドイツ・アリアより「わが霊魂は見ることで聴く」HWV207--
 ハンブルグの詩人ブロッケスは自然の美しさを讃え,神の恵みを讃美する詩集を発表した.この詩集はヘンデルの心をとらえ,彼は9つのドイツ・アリアとして作曲した.「わが霊魂は見ることで聴く」は,その中でもとりわけ美しい旋律のアリアである.
B.ストロッツィ(1619-1664以降)
--「心に秘めた恋人」--
 ストロッツィは17世紀中期のヴェネツィアの女流作曲家・歌手.「心に秘めた恋人」は,アリア(歌)・レチタティーヴォ(語り)が交互に繰り返されていく中で,誠実さを大切にするならば,恋は美徳であることを,人々に語りかける.
C.モンテヴェルディ(1567-1643)
--「喜びの声をあげよ」「金色の髪よ」--
 モンテヴェルディは,イタリアのクレモナに生まれた初期バロック音楽の大作曲家.オペラをはじめとしてバロック音楽の基礎を築いた.「喜びの声をあげよ」は『倫理的・宗教的な森』の中の一曲.「対話風の独唱」という指示があり,〈休止tacet〉と〈歌canta〉が交互に繰り返されるモテットである.最後の“アレルヤ”が,瞑想的な余韻のように響く….一方,「金色の髪よ」は『マドリガーレ第7巻』の中の一曲.魅力的なヴァイオリン(本日はリコーダー)のリトルネッロをもつカンツォネット風の軽快な作品.歩調をとるような固執低音上で歌われる有節変奏である.(風間左智)

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